三方よし!のビジネスの創り方 価値が連鎖するビジネスを“CVCA”で考えよう
こんにちは、「みんなのデザイン思考とアジャイル」運営チームです。
私たちは「リコーアジャイル」を全社に浸透させるため、デザイン思考やアジャイルの学習&実践の場として、セミナーやワークショップイベントを定期的に開催しています。
今回は「ステークホルダーを三方よしでおさめる!ビジネスモデルの構想の手法をCVCAで学ぼう!」というイベントを開催しました。
みなさんは、“CVCA”という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
CVCAとは顧客価値連鎖分析(Customer Value Chain Analysis)のことで、ビジネスで想定されるステークホルダーを洗い出して、それぞれの間を流れるお金・情報・製品などの価値の流れを可視化し、ビジネスモデルをデザインしたり、チェックしたりする分析手法のことです。
この手法は、ステークホルダーと双方向にWin-Winな関係を作るだけではなく、それ以上にすべての関係者との「三方よし」の関係をデザインすることが可能です。ステークホルダーとのよりよい関係性を築き、価値の連鎖が生まれるビジネスモデルの構想手法を、CVCAを用いて学んでいきましょう!
イベントでは、さまざまなテーマでの実例をベースに解説し、後半には実際にCVCAを用いてビジネスモデルをデザインするワークショップも行いましたので、本記事ではその内容をご紹介します。
CVCAの描き方自体はシンプルで難しいものではありません。ぜひ、この記事を読んだ後のみなさんも、気軽に試してみていただけると嬉しいです。
なぜタイヤメーカーのミシュランがレストランガイドを作っているの?
はじめに、ミシュランの例をもとに 、CVCAの構造を解説します。
ミシュランはフランス発祥のタイヤメーカーです。ミシュランはタイヤメーカーでありながら、なぜレストランガイド「ミシュランガイド」を作ったのでしょうか?
まず、ミシュランガイドを始める前のミシュランのステークホルダー間の価値の流れは以下のようになっていました。
ここからタイヤの売り上げをさらに上げるために、真っ先に思いつくのは自動車メーカーに働きかける方法かと思います。しかし、ここでミシュランは「一般ユーザーが自動車に乗る機会を増やすこと」を目的として、「レストランガイドを作成してドライブの機会を増やそう」と考えました。
全体像としては以下のようになります。
こうすると、レストランは遠方も含めた新規客の集客につながり、一般ユーザーは美味しいレストランの情報をたくさんキャッチでき、食べに行く楽しみができます。ドライブの機会が増えたことで自動車メーカーは売り上げが上がり、連動してミシュランのタイヤも多く売れるようになります。
ミシュランガイドの発行によって、レストランを加えた全てのステークホルダーに新たな価値連鎖が生まれたことがわかります。
CVCAではこのように、ステークホルダーとそれぞれの価値を線で結び、どのような流れが生まれるのかを考えていきます。
自動販売機ビジネスからCVCAを考える
次に、自動販売機のビジネスモデルをさまざまなパターンから考えていきましょう。
①道路脇にある一般的な自販機
道路脇でよく目にする自販機は、以下のようなCVCAを描くことができます。
顧客は近くの場所で手軽に飲料が手に入り、設置者(土地の所有者)はローリスクで空地を有効活用できるメリットがあります。ここでは設置者である土地オーナーと顧客は関係がなく、そこに価値の流れはありません。
②価格の安いオフィス内自販機
オフィス内にある、通常よりも販売価格が安い自販機の場合はどうでしょうか。
設置者と購入者の関係によって、赤字部分のお金の流れが変わることに注目してみてください。
福利厚生の一環として通常価格より安く提供するため、設置者である企業には収益は入りませんが、その分従業員は飲み物を安く購入できるという新たな価値が生まれています。
③熱中症対策自販機
では、工事現場にある熱中症対策の自販機の場合はどんなCVCAになるでしょうか。
工事現場には、炎天下での作業などによる熱中症を未然に防ぐため、50円程度の低価格で飲料を購入できる「熱中症対策自販機」が導入されていることがあります。
企業は熱中症など「労災を防ぎたい」という動機で自動販売機を設定するため、原価よりも低い金額で価格が設定されます。そのため今までの例とは逆に、売り上げ金額から足りない分の差額を自販機オペレーターに支払うフローになっています。
しかし、企業側にとっては労災の防止という大きな価値があり、作業員からも企業に対して「助かる」という声が多いようで、あらゆるステークホルダーにメリットを提供できるビジネスモデルが成り立っています。
④社長のおごり自販機
また、以下のようなユニークな例もあります。
「社長のおごり自販機」とは、法人向けの自販機で、専用タッチ部分に2名の社員証を掲げると1本ずつ無料になるというもの。無料なので社長は自販機オペレーターに売り上げの全額を支払うことになりますが、従業員は無料で飲み物を購入でき、企業側は社員同士のコミュニケーションの活性化につなげることができます。
このように、自販機ひとつにしてもさまざまなCVCAを描くことで、たくさんのビジネスモデルが検討・検証できることがわかります。
CVCAの描き方と活用法
それでは、実際にCVCAを描いてみましょう!
描き方は簡単で、以下のような順序で行います。
手順としては、まず、ステークホルダーを洗い出します。この時はむやみに増やさず関係する人のみを書き出します。ステークホルダーを洗い出せたら、以下のようにそれぞれ考えていそうなことを思い描いてみましょう。
最初は知っている範囲の常識、想像で構いません。
次に、これまでの例のようにステークホルダー間の関係を、お金・情報・モノ・サービス・気持ちなどの価値でつないでみましょう。
最後に、全体を眺めて修正を行い、完成です。
さらに、ビジネスで活用する場合は、以下の点をチェックしましょう。
◾️考案したビジネスのアイデアに弱点がないか確認する
例えば、
・ステークホルダーの誰かが一方的に持ち出しになっている
・ステークホルダーが興味・関心のないところで巻き込まれている
という場合はうまくいかないことが多いので、考え直した方が良いでしょう。
◾️良さそうなら追加で調査したり、ステークホルダーにヒアリングしたりしてビジネスプランを磨く
ステークホルダーが考えていることを、ヒアリングを通して確実性を高めていくとプランの精度が高まります。
実際にCVCAを描いてみよう
イベントでは、お題をもとに参加者それぞれがCVCAを描いて新たなビジネスモデルを検討し、意見交換を行いました。
10分間のワークだったにもかかわらず、参加者からは以下のようなさまざまなビジネスプランのアイデアが飛び交いました。
参加者からは、「みなさんの発想がすごい!さまざまな情報交換ができて非常に面白かった」「ステークホルダーの価値を前提にビジネスを考えるということは事業企画の肝になってくると思うので、参考にしたい」という、発見の声や感想をいただきました。
このように、CVCAはすべてのステークホルダーに価値が連鎖するビジネスモデルのパターンを発想することができるフレームワークです。簡単なステップで思考を整理しながら分析することができますので、みなさんも日頃のお仕事で活用してみていただけるとうれしいです!
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リコーでは組織全体でデザイン思考とアジャイルを取り入れた改革に挑戦中です。noteを読んでくださっている社内外の人たちと知見を交換できると大変嬉しいです。
これからも、デザイン思考とアジャイルの実践現場から、みなさんの役に立つ情報をお届けしていきます。
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