【後編】組織DXで「芯から」アジャイルとデザイン思考を浸透させる、その戦略とは
前回の記事では、リコーがなぜ「芯から」アジャイルとデザイン思考が必要だと考えているのか、その背景や志、デザイン思考やアジャイルという考え方について伺いました。
自らアジャイルでふりかえり・むきなおりを行っている中で出てきた、新たな課題・仮説に対し、どのような検証・試行を行っていくのでしょうか?
コーポレート上席執行役員 CDIO 田中豊人氏とCDIO付DXエグゼクティブ 市谷聡啓氏の対談、後編をお届けします。
これから何が起こるのか、タスクフォースで行うこと
ーー具体的にタスクフォースで何をやっていくのか、言える範囲で教えていただけますか。
市谷:組織や仕事を進めたり、プロジェクトを立ち上げて推進していく際には、おおまかに2種類の方法があります。
ひとつは「勝ち方がわかっている」パターンです。
どんなお客様にどんな製品を提供するとどんな風に嬉しいのかが大体わかっており、いかに早く、期待通りの品質を届けて使ってもらうかが大切。
この場合の仕事のやり方は定められた通りにできているか、予定通りに進んでいるかが大事になります。
もう一方は「勝ち筋をみつけるところから」行うパターンです。
どのようなお客様にサービスを創っていくのか、お客様のどんな課題を解決するのかがわからないような場合です。
社内向けの施策であっても、効果が定かではない状況で取り組まないといけない場合もありますよね。
昔からこのようなことはありましたが、変化が加速し不確実性が増す中で、よりいっそう勝ち筋を見つけていくことが求められています。
勝ち筋を見つけるために仮説を立てて検証し、実験し試行していくことが仕事の中に盛り込まれることが必要になります。
リコーの「“はたらく”を変革するデジタルサービスの会社に生まれ変わる」という文脈では、この「勝ち筋を見つけていく」仕事のやり方が求められます。
もちろん「勝ち方がわかっている」ことに必要な技術がいらなくなるかと言うとそうではなく、その領域ではこれまで磨いてきた方法や考え方は適応していく一方、組織にとって未知な領域に踏み込む仕事は、すべてにおいて「勝ち筋を見つける」ことが大切になるということ。
それに必要なのがアジャイルとデザイン思考です。これはリコーにおいてデジタルサービスをつくる新規事業や一部の部署に必要なことではなく、全員が使える武器として手にして活用していくことが期待されています。
デザイン思考は「本当に合っているか?他により良い選択肢はないか?を問うための"すべ"」、アジャイルは「動いてみて、その過程と結果から次の判断と行動を学ぶための"すべ"」と定義しましたが、リコーではこのデザイン思考とアジャイルを総称して「リコーアジャイル」と呼んでいます。
リコーアジャイルを組織のあらゆる活動において選択肢として追加するということが、今回のタスクフォースのミッションです。
リコーの隅々までアジャイルにする「アジャイル・ハウス」
市谷:これを家に例えると、地下にある基礎から1階、2階、3階にいたる家になります。
基礎の部分は「リコーアジャイルマインドの理解」
1階は「チームで仕事をするためのリコーアジャイル」
2階は「新たな価値創出のためのリコーアジャイル」
3階は「組織運営のためのリコーアジャイル」です。
1階の「チームで仕事をするためのリコーアジャイル」は、日常の仕事の仕方に取り入れようとする取り組みです。様々な仕事の現場で業務内容を問わず、アジャイルやデザイン思考のエッセンスを取り入れて、活かしていきます。
2階の「新たな価値創出のためのリコーアジャイル」は、1階から積み上げた先にある、デジタルサービスづくりを行う際に必要となるアジャイルとデザイン思考を磨いていく部分です。
3階の「組織運営のためのリコーアジャイル」は、その考え方を部署、室、グループなどの組織運営に取り入れていく部分になります。
つまり、日常の仕事からデジタルサービスづくり、組織運営にいたるまでアジャイルとデザイン思考を活用して行くのがリコーのアジャイル・ハウスです。
そしてこういった活動を支える、地下にある基礎「リコーアジャイルマインドの理解」は、上に積み上がっていくものを支える考え方でありマインドの部分です。ここがバラバラで理解が異なると土台が安定せず、強い快適なハウスではなくなってしまうので、基礎部分はしっかり構築していきます。
結果的に実現していきたいことは「動ける体になる」ことです。
人体に例えると硬直したカチコチの状態、「あらかじめ」こうしておこう「これまで」ああしてきたという体から、もっとより良い判断や行動の方向性はどこだろうと仮説を立て、トライしていけるような「動ける体」になる、そんな組織や人になることです。
リコーのDXを成功させる、最初のジャーニー
市谷:最初のジャーニーにおける作戦は、3つのコンセプトでやっていこうと考えています。
1つ目は「面」と「点」の2面作戦。これは「面」として勉強会やセミナーでアジャイルとデザイン思考を認知してもらい、最初の取り組みに必要な知識を得られる機会を広くつくることと、「点」で具体的な部署やチームでの関心、ミッションに基づく実践の支援を行ってケーススタディをどんどん増やしていくことです。
そして面や点に集中しているとWHYが薄れ、やってることも個別ばらばらで混乱をまねいてしまうので、目指すべき北極星としての価値と原則の言語化も行います。
2つ目は"武器"と"仲間"を得ることです。リコー社内の取り組みだけではなく、大学や他企業との共同プロジェクトや合同勉強会を仕掛けようと思っています。
また、組織運営のアジャイル支援では「組織スクラムマスター」を設置していきます。そしてそれを包括する「みんなのデザイン思考とアジャイル」コミュニティも継続していきます。
「組織スクラムマスター」とは、状況を見て適切に判断し、動けるようにするチームの「自己組織化」を促すコーチでありファシリテーターです。チームや部門が自分たちで自身の障害を取り除き、ミッションを実現していくことを後押しします。
3つ目は「imagine. change.」の推進です。リコーアジャイルとは、可能性を広げ(デザイン思考)、変化を起こすもの(アジャイル)。どれだけチームや組織で可能性を広げられていて、変化を起こせているかを可視化することが、リコーアジャイルが浸透し広がっていることを判断する材料になるのではないかと思っています。
じつはそれはリコーのブランドメッセージとしてすでに「imagine.change.」と表されていることと重なります。つまりリコーアジャイルを進めていくことは、「imagine.change.」の活動を進めていくことと等しいのではないか、と考えています。
ーーリコーのDXを成功させるには、形だけではなくマインドもとても大事だと理解できました。
市谷:私はこれまで色んなDXを見てきました。実行できない「屏風のトラDX」や、実態が乏しい「裸の王様DX」、経験したことがない仕事が山ほどあって疲弊していく「眉間にシワ寄せDX」などです。
DXにまつわることというのは新しい取り組みになることが多い。経験がなかったりやったことがないと、慣れない仕事なので負荷も高くなります。
見積もりもできないから、歯を食いしばりながら眉間にシワを寄せて、耐え凌いで乗り越えていきますといったDXになっていることがあって、人が離れることも起きてしまいます。
慣れない仕事をやるので、そうなるのも無理はないなと思います。でも、リコーは「"はたらく"に歓びを」というビジョンを掲げている。“はたらく”に歓びをもたらすリコーが、眉間にシワを寄せるDXであっていいはずがない。
なので、あえてこれからの取り組み、リコーのDXはあかるいDX、たのしいDX、げんきがでるDXを目指したい。そしてそういうDXを目指すには、やはりリコーの芯からアジャイルとデザイン思考を宿していく必要があると思います。
田中:自分たちがワクワクしていないのに、周囲をワクワクさせることができるわけもありません。
"すべ"であり在り方であるリコーアジャイルで、新たな可能性を広げ、変化・チャレンジを存分に楽しんでいきましょう。
すべては「"はたらく"に歓びを」に通じるのですから。
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リコーは、組織全体でデザイン思考とアジャイルを取り入れた改革に挑戦中です。これからも、デザイン思考とアジャイルの実践現場から、みなさんの役に立つ情報をお届けしていきます。
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