【前編】なぜ組織DXに「芯から」アジャイルとデザイン思考が必要なのか?
2020年、リコーはデジタルサービスの会社への脱皮を宣言し、リコーらしいDXの形を模索し始めました。
始まりから約2年がすぎ、デジタル人材を育成するリコーの取り組みはまた新たな局面を迎えています。
今年9月には「リコーを芯からアジャイルにするタスクフォース」という組織もでき、さらに広がりを見せているリコーのデジタル戦略。このタスクフォース結成の裏側にはどんな戦略と思いがあるのでしょうか。
タスクフォース発足のキックオフイベントにて、コーポレート上席執行役員 CDIO 田中豊人氏とCDIO付DXエグゼクティブ 市谷聡啓氏が対談を行い、これまでの取り組みとそこから見えてきた課題、今後の展望について語りました。
リコーが考える、「芯から」行う組織DXについて、対談形式でお届けします。
「芯からアジャイルにする」とはどういうことか
ーー今回「リコーを芯からアジャイルにするタスクフォース」という組織ができたと聞きました。ちょっと変わった組織名ですが、この名称にも色々な思いが込められていると伺っています。
市谷:この名称にある「芯から」ということにこだわっています。
どこか遠くでちょこちょこやってますというものではなくて、リコーの隅々までアジャイルとデザイン思考を届けて、その中に溶け込むように日常の仕事に取り入れている状態をつくる。そういう意味を「芯」という言葉に込めています。
後半の"アジャイル"は、本当は"アジャイルとデザイン思考”なのですが、長すぎるため"アジャイル"に代表させました。
田中:リコーは約2年前にデジタルサービスの会社への脱皮を宣言し、これまでも様々な取り組みを行なってきました。
リコーがデジタルサービスの会社に変革していく中、力を入れているのが、企業風土と人材です。
企業風土と人材というのは会社の根幹です。自分自身も2020年に入社し、それがDXの最優先課題だと認識し、これまで取り組んできました。
その一環として、リコーのデジタル人材を育成するために、アジャイルとデザイン思考の講座や勉強会を開催してきました。この講座や勉強会にはこれまでのべ1000人以上が自発的に参加してくれています。これは素晴らしいことですが、一方でフォローアップの調査では、そのうち60%の方が学んだことを組織の中で使えない、使える雰囲気ではないと回答しています。
せっかく学んで変革していこうとする人がいても、組織全体がまだそれを支える風土・文化になっておらず、それが変化を止める一因となっているということが分かってきました。
今それに対し様々な対応をしている中、ボトムアップの普及だけではなく、組織として実践し可視化までやってしまおうというのが、今回新設するタスクフォースの狙いです。
企業風土は戦略そのもので、全員でつくり上げていくものです。
格好良いキャッチコピーや意識変革ではなく、行動変容が大切です。やってみて、体験してみて、気づいて納得して、それぞれの人の楽しさに変わっていくことが理想です。
創業から行なってきた持続可能な事業成長
ーーなぜ今、その取り組みが必要なのでしょうか?
田中:実はリコーのDXは、デジタルサービスの会社になるということが先にあった訳ではないのです。
リコーにはDNAとして刻まれている、創業者の市村清が掲げた「人を愛し 国を愛し 勤めを愛す」という「三愛精神」が原点としてあります。これは今で言うSDGsに繋がっていて、我々はESGといった言葉が普及する前から、持続可能な社会づくりと事業成長を同時に目指す両軸の経営を行なってきました。
そしてもうひとつ「"はたらく"に歓びを」というビジョンがあります。つまり、持続可能な社会づくりに貢献を果たし、人にしかできない創造的な仕事をしていただくために、お客様に寄り添い、お役に立ち、お客様そして自分たちもがはたらく歓びを実現すること。このためにリコーはデジタルサービスの会社へと変革を進めています。
以前であれば、素晴らしい技術者がいて素晴らしい製品をお客様に提供することで、お客様のお役に立てたのかもしれません。
しかし技術進化が進み、変化の激しい現在では、モノの提供だけでは社会課題の解決に必ずしも貢献できないと思います。我々は素晴らしいモノを提供する会社から、その技術力や製品力も活かしながら、お客様を誰よりも理解し、その困りごとの解決に繋がるサービスを提供するソリューションプロバイダーになる。その大きなビジネスモデルの変革を成功させるには、まず我々自身が変わることが不可欠なのです。
これまでの事業であれば、過去のデータを綿密に分析し、緻密な将来予測に基づいた計画を立て、それを分担して確実に遂行していくといったことが奨励されていたのかもしれません。
しかし現在のように社会も技術も変化が激しく、不確実な環境でお客様に価値提供をし続けるためには、そもそもの「正解」を探すところから始める必要があります。
お客様をなるべく理解し、本当に必要とされていると思うことをまずやってみて試す、そこから学んで必要なら修正するという考え方、仕組みにかえていくことが重要です。
そのためにアジャイルとデザイン思考が重要になってくるのです。
市谷:今回改めて、デザイン思考とアジャイルって何か?を自分なりに定義しました。
一言でまとめてしまうと、デザイン思考は「本当に合っているか?他により良い選択肢はないか?を問うための"すべ"」、アジャイルは「動いてみて、その過程と結果から次の判断と行動を学ぶための"すべ"」です。
リコーではこのアジャイルとデザイン思考を総称して「リコーアジャイル」と呼んでいます。リコーアジャイルを組織のあらゆる活動において選択肢として追加するということが、これからタスクフォースのミッションになります。
従業員8万人にアジャイルとデザイン思考を浸透させる、世界初の試み
ーー経営の立場にある方がアジャイルやデザイン思考をやっていくと宣言するのは珍しいことだと思うのですが、この1年半で得た気づきにはどのようなことがありますか?
田中:繰り返しになりますが、デザイン思考とアジャイルの講座に1年間で1000人以上の方々が手を挙げてくれて参加してくれたことは、本当に素晴らしいことです。
これは確実にリコーの魅力、強みですが、一方で日々の仕事やお客様に対して結果的に何か価値を生むようなことに繋がっているかと言うと、まだまだではないかと感じています。
今回のタスクフォースで行うことはその課題に対してのアプローチですし、組織職の研修にアジャイルとデザイン思考の講座を必須で入れてもらうなどの展開も計画しています。
市谷:リコーにとってアジャイルやデザイン思考というのは、ここ2〜3年でちょっとやってみたというライトなものではなくて、これから先の大事な価値観やアプローチとなり、両面で展開していくことになりますね。
田中:そうですね。性急にトップダウンでやるよりも、こんなアプローチの方がリコーに向いていると考えます。
時間はかかるかもしれないけれど、我々自身が自らをふりかえり、何よりもお客様の声に耳を傾け、持続可能な社会づくりや本当に必要となるサービスを創っていくには、今までのやり方だけでは実現しえないのです。
デザイン思考やアジャイルといった言葉が重要なのではなく、この言葉の背景にある在り方や考え方、行動がポイントなのです。
市谷さんに初めてお会いした時のことをはっきり覚えていますが、リコーのDXを推進する上での試行錯誤と経験が、変わりたいけれどどうしたら良いかわからないという他の企業様の参考になる可能性が高いと考えているとお話ししました。
もちろんこの取り組みはリコーのため、リコーのお客様のためでもあるのですが、リコーが変わることができるなら、他の会社にとってもいい事例になるのではないでしょうか。
市谷:リコーは従業員8万人、開発だけではなく日常活動から組織運営までアジャイルとデザイン思考を実践しようとしています。
こんな事例は国内にはないし、世界的に見ても見つけられないでしょう。リコーでトライしていこうとしていること、私達がこの取り組み自体から得る様々な学びと成果は、同様に立ち往生している多くの日本の組織にとって希望となりうるのではないかと期待しています。
後編もお楽しみに!
次回は、対談の後編をお届けします。タスクフォースが行う具体的な戦略やジャーニーについてお話していただいています。
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