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失敗したワークショップの話

こんにちは、「みんなのデザイン思考とアジャイル」をリコーで運営している武田です。

この記事を読んでいる方の中には、社内や社外でワークショップやイベントを企画し、ファシリテーションまで行い、試行錯誤しながらスキルを磨いている方もいれば、これからやっていきたいと思っている方もいると思います。
そんな方々にむけて、先日やってしまった私の失敗をシェアすることで、何らかのお役に立てばいいなと思っています。逆に言えば以下の点を注意すれば、円滑なワークショップやファシリテーションを実施する際の参考になるはずです。

今回は、つい最近リコーで実施した「管理職に向けたデザイン思考とアジャイルのワークショップ」が、あまりうまくいかなかった経験を題材にして、お話したいと思います。


管理職向けプログラムの課題

リコーは、多くの社員に「仮説検証型のはたらき方」を浸透させる手段として、デザイン思考とアジャイルを広めようとしています。しかし、組織運営を実際に方向付ける中間マネジメント層にその理解が進まないことには、スピード感を持って広まることは難しいと考えました。草の根活動になりすぎてしまい、時間がかかりすぎると考えたのです。

リコーではグループ企業含めて1000人を超える中間マネジメントが在籍しています。事業開発に関わるリーダーはもちろんのこと、工場の現場、セールス、ハードウェア開発、人事、経理、総務、広報…などなど、職種は多岐にわたります。そういった人たちが集まって同じプログラムを受講するわけですから、普通のアプローチでは最大公約数的で「薄口」な抽象度の高い内容になってしまいます。多くの人に共通するテーマを扱いながらも、抽象的になりすぎないようにする。最初から難しいプログラムの開発だということは認識していました。

今回のワークショップは、リコー全体を対象にしたプログラムを実施する前のテストとして、社内のDXを推進する部門の管理職、約70人を対象にして実施しました。

失敗1. 全体感を掴めず、内容が被る

今回実施したワークショップは、デザイン思考とアジャイル以外のテーマも含めた三部構成になっていました。全体として、リコーが今後の向かっていく方向について共通認識を深めることを目的としていたので、各テーマでそれぞれ似たような前提情報や確認レベルの一般情報を何度も話をすることになってしまい、参加者は当然、ウンザリしてしまいました。全体をまとめるという役割を担う人がいなかったことが失敗の原因でした。

カイゼンポイント:
各テーマの担当者は担当部分の作りこみに集中してしまうので、事前にすり合わせ、ワークショップ全体を通して最適化をリードする人の存在の重要性を感じました。また、話す順番やテーマの内容に応じて、フレキシブルに対応できるような設計と経験値が必要になると感じました。

失敗2. 受講者のリテラシーを見誤った

今回参加した部門はリコーのDXを担う専門部署ですから、新規事業の支援や社内IT基盤の整備など、リコーの中では比較的新しい業務をすることが多い部署です。
一方で今回のワークショップは、リコー全体の本番プログラムに向けた内容で実施しました。つまり幅広い人を対象に設定してしまったので、中には「お前に言われんでも知っとるわ、そんなもん」と感じられた方もいたようでした。またもやウンザリさせてしまったのです。

デザイン思考とアジャイルを推進する立場にいる私が、前提をきちんと整理しないままワークショップを実施してしまったことはお恥ずかしい限りです。

カイゼンポイント:
事前に対象を調査したうえで、内容を入れ替えても成立する、芯のあるストーリーをもったワークショップの設計をすることが、多くの人にプログラムを提供するうえで重要な点だと感じました。

失敗3. ステークホルダー全員の思惑に応えようとしたら、目的が曖昧になった

今回のワークショップは、役職がさらに上位のマネジメント層の関心も高く、多くの人が関与していて、それぞれが伝えたいメッセージがありました。日程の都合上、短期間にプログラムを作り上げる必要があるなかで、人づてに五月雨でやってくる要望を反映しながらワークショップの内容を軌道修正しているうちに、伝えたいことが段々と散漫になっていきました。
ワークショップ設計者の専門領域をこえた内容を突貫で勉強し、内容に反映する必要があったこともあり、「薄口」になった原因はここにもあったと思います。

カイゼンポイント:
多くの人が関わるワークショップであるほど、その狙いは多層的になります。しかし一度のワークショップで届けられるメッセージは、多くはありません。事前に最低限伝えるべきことを取捨選択し、フォーカスする必要があります。その上でステークホルダーと調整していくこともまた、ワークショップの設計には必要なことであると理解する機会になりました。

失敗4. 難しいワークと時間のバランスが悪かった

ワークショップで実施するワークの難易度は様々です。経験者には簡単であっても、やったことが無い人にはどこから手を付けていいのかわからない。そんなことが良く発生します。設計者は経験値が高いので、これくらい理解できるに決まっている、というバイアスにはまりがちです。

案の定、今回もはまりました。デザイン思考の価値を伝えたいがために、その抽象的で小難しい概念を突貫で作った未熟なフレームワークに押し込んで、かなり短時間で体験してもらおうとしたのですから、そもそも無理というものです。チームごとに経験豊富なサブファシリテーターを配置できればよいのですが、一度に50人を越える参加者となると、それもままなりませんでした。

カイゼンポイント:
わかりにくいことを多くの人に一度に伝えるような難易度の高いワークは、時間をかけた説明と適切な例示、本番前に簡単な例で練習する、十分なワーク時間、といった慎重なケアが必要になることを認識しました。

失敗5. リハーサルをしなかった

 今回の最大の失敗要因は、リハーサルをしなかったことです。ギリギリの進行で直前まで内容の設計をしていたからですが、手間を惜しまず有識者にレビューし、通し稽古を一度でもやっていれば、失敗の7割は防げていたように思えます。

デザイン思考で大切にされるプロトタイピング指向が抜け落ちていたわけですが、追い込まれるとそんな原理原則も忘れてしまいます。

カイゼンポイント:
レビューの日程を無理にでも定期的に設定しておくことが重要であると感じました。

失敗6. デジタルツールの習熟度が影響した

今回は、ワークの大半をオンラインホワイトボードサービスのmiroを使って実施しました。しかし蓋を開けてみると、参加者にはこういったオンラインツールの未経験者もかなりいました。

ツールの概念を掴み、それなりに使えるようになるには少し時間がかかります。ツールを知らないままワークショップが始まり、どんどんワークの時間が過ぎていくと、ツールの試行錯誤と自分の考えをまとめることに脳のリソースは割かれ、議論が活性化しない、という現象が発生しました。一度にやれることには限界がありますから、デジタルツールを利用するときは特に注意が必要でした。

カイゼンポイント:
miroは非常に優れたツールで、少し慣れると現実の付箋よりもずっと扱いやすく、デジタルならではの利点がたくさんあります。ただその習熟度はワークショップに無視できない影響を与えますので、事前にログインの準備、操作の練習など、細かなケアの必要性を改めて感じる機会になりました。

失敗を書くことで成仏させる

いかがでしたでしょうか?ワークショップを失敗に導く要因はまだまだ沢山あると思いますが、私の失敗が読者の皆様の何かにお役に立てたなら幸いです。

今回の数々の失敗も、こうしてふりかえり、noteで書くことで誰かの役に立つかもしれないと思うと、私の悔恨もまたいくらか和らいでいきます。アジャイルの重要な要素として大切にしている「ふりかえり」とは、仕事上の失敗や後悔をナレッジに転換することで成仏させることなのではないか?とふと思いました。
やっててよかったnote。南無...

管理職向けプログラムは、今回の失敗をもとに改善を続けています。実践を重ねて形になってきましたら、改めてこのnoteでご紹介できたらいいなと思います。

本noteではこれからも「デザイン思考」「アジャイル」への取り組みをご紹介していきます。またコメントやフィードバックをいただけると嬉しいです。

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