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日本から韓国へ。文化や年齢を超え多様性の高いチームでガバナンスとイノベーションを両立させる挑戦

こんにちは、「みんなのデザイン思考とアジャイル」の運営チームの辻原です!
日本のお隣であり、食文化やエンターテインメントなども馴染みが深い韓国。今回は、そんな韓国・ソウルにあるリコーのビジネス拠点Ricoh Korea(リコーコリア)で、コーポレートガバナンスと企業文化の醸成、デザイン思考やアジャイルの浸透に取り組む秋葉さんにお話しをお伺いしてきました。

@リコーコリアオフィス 秋葉さんにお話を伺ってきました

リコーコリアへの赴任と、文化の違いの発見


ー秋葉さんのリコーコリアでのお仕事を教えてください。

秋葉さん:リコーコリアは、リコーの韓国でのビジネス拠点です。グローバルセグメントとしては、リコーデジタルサービスカンパニー(RDS)のAPAC(アジア・パシフィック / Asia‐Pacific)に属しています。

リコーコリアの立ち上げは約10年前で、リコーグループの販売会社としてはまだ歴史の浅い会社のひとつです。私自身は5年前に管理部門のトップとしてリコーコリアに赴任し、コーポレートガバナンスの強化や内部統制の構築、リスクマネジメントを担当してきました。

リコーコリアは、主力の一般オフィス向けの複合機・プリンターの事業をゼロから立ち上げました。そのため同業他社などからの中途採用の社員が多く、私が赴任した時点では、まだまだ「リコーの企業文化」が根付いていないことが大きな課題の一つでした。
コーポレートガバナンスやリスクマネジメントの対応を行いながら、日本から発信されるトップマネジメントの方針を社員に伝え、「リコーウェイ」というリコーグループの企業コンセプト・価値観の浸透に努めてきました。

エントランスに掲げられたリコーウェイ

ー韓国に来て、日本との文化の違いに驚いたことはありますか?

秋葉さん:韓国は基本的に日本とよく似ていると思います。一般的な業務のコミュニケーションにおいて文化的な違いを強く感じることはありません。住環境や生活環境なども、日本よりもIT環境が整備されていることもあり、慣れると大変便利で快適です。エンターテインメントも充実しており、私個人としては5年間大変充実した生活を送ることができました。

文化の違いに驚くということはありませんが、人とのコミュニケーションをとるにあたり、特徴的だと思われる点はあります。

具体的には、韓国の男性社会の規律です。韓国の男性社会では、上司や役職の高い人に対し反対意見を伝えることに抵抗を感じる人が日本に比べ多いように感じます。
上司や目上の人の判断に疑問をもつようなことがあっても、必要なコミュニケーションをとらず、目上の人の判断だから従うという傾向が、日本よりも多いように思います。

こうした意思決定の特徴にはいくつかの社会的な背景があると思われますが、日本との違いで言えば、一つは徴兵制ではないかと考えています。

韓国では原則、全ての成人男性に兵役の義務があり、遅くとも28歳までに約2年間軍隊に所属します。そこで教え込まれるのは、「上官の命令は絶対」という思考であり、20代で受けるそうした教育が、会社組織に所属したあとも、上司や目上の人とのコミュニケーションに影響をしているのかもしれません。

もう一つの背景としては、儒教が挙げられると思います。
韓国は儒教文化が根付いており「年上を敬う」ことを幼い頃から教えられます。日本の方は驚かれるかもしれませんが、韓国では初対面のミーティングで相手の生まれ年を聞くことがあります。相手の年齢によってミーティングでの振る舞いを変えてしまう方もいらっしゃいます。そうした環境ではやはり目上の方や上司に進言する、というのはなかなか難しくなってしまいますよね。

私はこうした目上の人を敬う韓国の文化をとても素晴らしい文化であると考えていますが、その感覚をビジネスに持ち込まれてしまうと、企業経営における内部統制やリスクマネジメント、コンプライアンスという観点からは、ややもすると阻害要因となりかねません。その点には注意する必要があると考えています。

本質的な課題と向き合うということ


ーそうした課題にどのように取り組まれたのでしょうか?

秋葉さん:全世界で実施したコンプライアンスのグローバルサーベイの結果を見ると、アメリカや欧州のスコアは高いのですが、アジア地域のスコアは相対的に低い傾向にあり、リコーコリアも例外ではありませんでした。

私はスコアの低さの原因をきちんと特定するため、もともと無記名式だった社内調査を記名式に変更しました。無記名式調査で課題を全体的に捉えるのをやめ、記名式で「誰がどんな課題を抱えているのか」を個別的に把握できるようにしました。

そうした取り組みを経て、一緒に仕事をしていた人の別の側面が見えてくるようになりました。業務中には明らかになっていなかったコンプラ意識や、考え方の傾向を一人一人把握していったのです。

そうすることで、その人が持っている思考の特性に本質的にアプローチすることができ、クエスチョンを合わせていくことができます

本質的で根深い課題はイーラーニングや研修などで一括的に解決できず、一人一人の認識状況に細やかに整合していく必要があると考えています。そうした気づきや経験は非常に貴重なものでした。

デザイン思考のマインドセットとリコーウェイ


ーそのほかに秋葉さんが注力されたことはありますか?

秋葉さん:私がリコーコリアで注力していたことの一つに、日本のトップマネジメントの方針の伝達と実践があります。日本で発信される経営方針や計画をきちんと韓国語に翻訳し、社内に発信していきました。今どういったことが注力課題なのか、ファミリーグループとしてどのように成長していこうとしているのか。伝えるだけでは実践につながらないため、実践のサポートを行いました。

特に人材育成方針として掲げられた「デザイン思考」「アジャイル」に関しては、私自身も勉強しながら社内で実践できるよう支援を行っていきました。

なかでも「デザイン思考」は、お客様と直接対話するリコーコリアのような販売拠点では活用できる場面が多いと感じています。
デザイン思考のマインドセットは繰り返し社内に周知し、毎年のイベントであるKAIZEN提案活動では、デザイン思考のマインド及びアジャイルを意識した活動・提案に取り組んでもらっています。

社員が多く行き交う複合機の向かいに掲出したデザイン思考のマインドセットポスター

加えて社員一人一人に注力するマインドを選んでもらい、社内に全社員の顔写真のイラストと合わせて選んだマインドをポスターにして掲示したり、社員証と合わせて宣言カードを携帯してもらうなどにより、デザイン思考・アジャイルの常態化に取り組んでいます。

個人が大事にするデザイン思考のマインドを名刺と社員証に掲げている

ーデザイン思考のマインドセット浸透は社内文化育成に役立ちましたか?

秋葉さん:私はコーポレートガバナンスの観点で、リコーが掲げる「リコーウェイ」の価値観や判断基準などの浸透も推進していました。
日本で作成された教育用の資料をみて、デザイン思考のマインドセットとリコーウェイに多くの共通点があることに、驚きとともに納得感がありました
 
リコーウェイやデザイン思考のマインドセットは価値観や考え方、スタンスについて整理されていますが、これまでそれらを「実践する方法」は個人に任されてきたと思います。それは良くも悪くも個人の裁量であり、多様性のあるチームで実践するには課題が多かったのです。

しかしながら人材育成方針としてデザイン思考やアジャイルが提示されたことによって、年齢や文化を越えた多様性のあるチームが協働するための実践ガイドになっています。マインドセットやリコーウェイでチームの価値観を揃えながら、デザイン思考やアジャイルの手法をもとに実践し試行するという流れは、社内文化の育成に多面的に寄与したと考えています。

デザイン思考の実践例


ーリコーコリアではどのようなデザイン思考の実践例がありますか?

秋葉さん:私たちの実践例としては、社内のKAIZEN活動で取り組まれた「QRコードプロジェクト」をご紹介したいと思います。これは、顧客と私たちの課題を同時に解決するための施策としてリコーコリアのチームが取り組み、提案したものです。

私たちはお客様に大型のプロダクションプリンティング機器や複合機を軸に、さまざまなビジネスソリューションマシンを提供しています。こうしたマシンは精密機械であるため、取扱い上不具合が発生した場合エラーやアラートが出されます。そのエラーやアラートは「お客様ご自身が解決できるもの」と、私たちのチームでも「専門のスタッフが対応しなければならないもの」と種類があります

前者の場合はお客様ご自身での対応用にマニュアルをお渡ししていますが、精密機械であるため、対応に不安がある場合はお問い合わせをいただき私たちの専門スタッフがご対応しています。
しかしながらお問い合わせをいただいてすぐにクライアントサイトに伺えないケースもあり、その場合はお客様のビジネスがストップしてしまう...といったことが従来の課題でした。

この課題を解決するためにチームが考案したソリューションは、エラーの種類や対応箇所ごとにQRコードを配置し、そこから対応手法の説明動画を視聴できるようにすることでした。チームではどういったエラーが起こりやすいのか、顧客はどこにつまずきやすいのか調査し、適切なQRコードの配置と添付サイズなどをテストを繰り返し検討していきました。

このソリューションによって、エラーやアラートの簡易な対応はお客様ご自身で対応いただけるようになり、マシンの稼働待機の時間を減らすことができました。また、専門チームが向かった際にもマシンごとの特徴や対応内容を理解し直すといった手間が省け、対応時間を削減することができ、内部からも大変喜ばれました。

こうした実践例は、常にエンドユーザーであるお客様とコミュニケーションをとっている私たちならではであり、デザイン思考やアジャイルといった手法が有効に活用できた事例であると思います。

リコーコリアをより洗練された組織へ


ーそのほかどのような取り組みを行われていらっしゃいますか?

秋葉さん:リコーウェイの浸透やデザイン思考・アジャイルの実践以外に、定期的に業務プロセス改善を行っています。

これはグローバルの方針ではありますが、リコーコリアでは「デジタルを使い倒す」ということをテーマにさまざまなデジタルツールに触れながら業務改善を行っています

少し前に行ったのはメタバースツールの導入で、会議やプレゼンテーションなどを置き換えてみました。新しい体験として非常に新鮮で楽しかったです。
こうした取り組みで大切なのは、試したツールが継続的な導入に至ったかどうかではなく、積極的に新しいツールを活用すること、私たちがそれを体験的に理解できているかどうかです。
 
お客様へのご提案にあたり最先端であることは重要ですが、最善であることはもっと重要です。自ら積極的に試していくことで、結果的にお客様への価値提供・価値提案に繋がっていくはずです。


ー今後リコーコリアとしてどんな組織を目指していきたいとお考えですか?

秋葉さん:先にお伝えした通り、リコーコリアはリコーグループの販売会社としてはまだ歴史の浅い会社であり、中途採用も多いため多様性も高い。加えて韓国独自の文化や規律の影響を受けながらも、成長しグローバル全体でも遜色のないより洗練された組織にしていくためには、今後も多くの乗り越えるべき壁が数多くあると思います。

私が担当してきたコーポレートガバナンスやコンプライアンスの徹底、リスクマネジメントはその基盤であると考えています。

その上にリコーウェイやデザイン思考、アジャイルが乗ってくることで、個々人やチームの創造性が花開き、イノベーティブでエクセレントな組織になっていくイメージを描いています。リコーコリアをより洗練された組織・企業にしていくため、どんどん取り組みが活性化していくといいなと考えています。

リコーコリアエントランス

ー秋葉さんは8月より中国へ赴任するとお聞きしました

秋葉さん:8月から中国の無錫へ赴任予定です。韓国とリコーコリアのチームに親しんできた中で少し寂しくもありますが...。中国への赴任はさまざまな不安要素がありますが、個人的には辛い食べ物が苦手なので、韓国よりも辛味の強い中華料理が不安材料の一つです(笑)。
 
中国でも同じようにコーポレートガバナンスやコンプライアンス、リスクマネジメントなどの対応を担当する予定です。新しい土地でさまざまな人や彼らの文化に触れられるのが楽しみです。私自身も、リコーコリアでの経験を生かして、さまざまなチャレンジをしていきたいと考えています。


日本との文化の違いから、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、リスクマネジメント、多様性の高いチームで取り組むデザイン思考やアジャイルなど、さまざまな視点でお話をお伺いでき、インタビュアーとしても大変勉強になりました。

秋葉さんの中国でのご活躍も楽しみにしています!

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リコーでは組織全体でデザイン思考とアジャイルを取り入れた改革に挑戦中です。noteを読んでくださっている社内外の人たちと知見を交換できると大変嬉しいです。
これからも、デザイン思考とアジャイルの実践現場から、みなさんの役に立つ情報をお届けしていきます。

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